す。
ホモイはあわてて一生けん命《めい》、あとあしで水をけりました。そして、
「大丈夫《だいじょうぶ》さ、 大丈夫《だいじょうぶ》さ」と言《い》いながら、その子の顔を見ますと、ホモイはぎょっとしてあぶなく手をはなしそうになりました。それは顔じゅうしわだらけで、くちばしが大きくて、おまけにどこかとかげに似《に》ているのです。
けれどもこの強い兎《うさぎ》の子は、決《けっ》してその手をはなしませんでした。怖《おそ》ろしさに口をへの字にしながらも、それをしっかりおさえて、高く水の上にさしあげたのです。
そして二人は、どんどん流《なが》されました。ホモイは二度ほど波《なみ》をかぶったので、水をよほどのみました。それでもその鳥の子ははなしませんでした。
するとちょうど、小流《こなが》れの曲《ま》がりかどに、一本の小さな楊《やなぎ》の枝《えだ》が出て、水をピチャピチャたたいておりました。
ホモイはいきなりその枝《えだ》に、青い皮《かわ》の見えるくらい深《ふか》くかみつきました。そして力いっぱいにひばりの子を岸《きし》の柔《やわ》らかな草の上に投《な》げあげて、自分も一とびにはね上がりました。
ひばりの子は草の上に倒《たお》れて、目を白くしてガタガタ顫《ふる》えています。
ホモイも疲《つか》れでよろよろしましたが、無理《むり》にこらえて、楊《やなぎ》の白い花をむしって来て、ひばりの子にかぶせてやりました。ひばりの子は、ありがとうと言《い》うようにその鼠色《ねずみいろ》の顔をあげました。
ホモイはそれを見るとぞっとして、いきなり跳《と》び退《の》きました。そして声をたてて逃《に》げました。
その時、空からヒュウと矢《や》のように降《お》りて来たものがあります。ホモイは立ちどまって、ふりかえって見ると、それは母親のひばりでした。母親のひばりは、物《もの》も言《い》えずにぶるぶる顫《ふる》えながら、子供《こども》のひばりを強く強く抱《だ》いてやりました。
ホモイはもう大丈夫《だいじょうぶ》と思ったので、いちもくさんにおとうさんのお家《うち》へ走って帰りました。
兎《うさぎ》のお母さんは、ちょうど、お家で白い草の束《たば》をそろえておりましたが、ホモイを見てびっくりしました。そして、
「おや、どうかしたのかい。たいへん顔色が悪《わる》いよ」と言《い》いながら棚《
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