ガサリと鳴り、カン蛙はふらふらっと一寸ばかりめり込みました。ブン蛙とベン蛙がくるりと外の方を向いて逃げようとしましたが、カン蛙がピタリと両方共とりついてしまひましたので二疋のふんばった足がぷるぷるっとけいれんし、そのつぎにはたうとう「ポトン、バチャン。」
 三疋とも、杭穴の底の泥水の中に陥《お》ちてしまひました。上を見ると、まるで小さな円い空が見えるだけ、かゞやく雲の峯は一寸《ちょっと》のぞいて居りますが、蛙たちはもういくらもがいてもとりつくものもありませんでした。
 そこでルラ蛙はもう昔習った六百|米《メートル》の奥の手を出して一目散にお父さんのところへ走って行きました。するとお父さんたちはお酒に酔ってゐてみんなぐうぐう睡《ねむ》ってゐていくら起しても起きませんでした。そこでルラ蛙はまたもとのところへ走って来てまはりをぐるぐるぐるぐるまはって泣きました。
 そのうちだんだん夜になりました。
    パチャパチャパチャパチャ。
 ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
 いくら起しても起きませんでした。
 夜があけました。
    パチャパチャパチャパチャ。
 ルラ蛙はまたお父さん
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