にこぼしました。
烏の大監督も、灰いろの眼から泪《なみだ》をながして云いました。
「ギイギイ、ご苦労だった。ご苦労だった。よくやった。もうおまえは少佐になってもいいだろう。おまえの部下の叙勲《じょくん》はおまえにまかせる。」
烏の新らしい少佐は、お腹《なか》が空《す》いて山から出て来て、十九隻に囲まれて殺された、あの山烏を思い出して、あたらしい泪をこぼしました。
「ありがとうございます。就《つい》ては敵の死骸《しがい》を葬《ほうむ》りたいとおもいますが、お許し下さいましょうか。」
「よろしい。厚く葬ってやれ。」
烏の新らしい少佐は礼をして大監督の前をさがり、列に戻《もど》って、いまマジエルの星の居るあたりの青ぞらを仰ぎました。(ああ、マジエル様、どうか憎《にく》むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません。)マジエルの星が、ちょうど来ているあたりの青ぞらから、青いひかりがうらうらと湧きました。
美しくまっ黒な砲艦の烏は、そのあいだ中、みんなといっしょに、不動の姿勢をとって列《なら》びながら、始終きらきらきらきら涙をこぼしました。砲艦長はそれを見ないふりしていました。あしたから、また許嫁《いいなずけ》といっしょに、演習ができるのです。あんまりうれしいので、たびたび嘴《くちばし》を大きくあけて、まっ赤に日光に透《す》かせましたが、それも砲艦長は横を向いて見逃《みの》がしていました。
底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日発行
1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング