きまつたやうに力いつぱいたゝかひます、みんなみんなあなたのお考へのとほりですとしづかに祈つて居りました。そして東のそらには早くも少しの銀の光が湧《わ》いたのです。
ふと遠い冷たい北の方で、なにか鍵《かぎ》でも触れあつたやうなかすかな声がしました。烏の大尉は夜間双眼鏡《ナイトグラス》を手早く取つて、きつとそつちを見ました。星あかりのこちらのぼんやり白い峠の上に、一本の栗《くり》の木が見えました。その梢《こずゑ》にとまつて空を見あげてゐるものは、たしかに敵の山烏です。大尉の胸は勇ましく躍りました。
「があ、非常召集、があ、非常召集」
大尉の部下はたちまち枝をけたてて飛びあがり大尉のまはりをかけめぐります。
「突貫。」烏の大尉は先登になつてまつしぐらに北へ進みました。
もう東の空はあたらしく研いだ鋼のやうな白光です。
山烏はあわてて枝をけ立てました。そして大きくはねをひろげて北の方へ遁《に》げ出さうとしましたが、もうそのときは駆逐艦たちはまはりをすつかり囲んでゐました。
「があ、があ、があ、があ、があ」大砲の音は耳もつんぼになりさうです。山烏は仕方なく足をぐらぐらしながら上の方へ飛び
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