はなやさい》が光って百本ばかりそれから蕃茄《トマト》の緑や黄金《きん》の葉がくしゃくしゃにからみ合ってゐた。馬鈴薯《ばれいしょ》もあった。馬鈴薯は大抵倒れたりガサガサに枯れたりしてゐた。ロシア人やだったん人がふらふらと行ったり来たりしてゐた。全体祈ってゐるのだらうか畑を作ってゐるのだらうかと私は何べんも考へた。
 実にふらふらと踊るやうに泳ぐやうに往来してゐた。そして横目でちらちら私を見たのだ。黒い繻子《しゅす》のみじかい三角マントを着てゐたものもあった。むやみにせいが高くて頑丈《ぐゎんぢゃう》さうな曲った脚に脚絆《きゃはん》をぐるぐる捲《ま》いてゐる人もあった。
 右手の方にきれいな藤《ふぢ》いろの寛衣をつけた若い男が立ってだまって私をさぐるやうに見てゐた。私と瞳《ひとみ》が合ふや俄《にはか》に顔色をゆるがし眉《まゆ》をきっとあげた。そして腰につけてゐた刀の模型のやうなものを今にも抜くやうなそぶりをして見せた。私はつまらないと思った。それからチラッと愛を感じた。すべて敵に遭って却《かへ》ってそれをなつかしむ、これがおれのこの頃《ごろ》の病気だと私はひとりでつぶやいた。そして哂《わら》
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング