家長制度
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)火皿《ひざら》は
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 火皿《ひざら》は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりと膝《ひざ》をそろへて座ってゐる。
 その息子らがさっき音なく外の闇《やみ》から帰ってきた。肩はばひろくけらを着て、汗ですっかり寒天みたいに黒びかりする四匹か五匹の巨《おほ》きな馬をがらんとくらい厩《うまや》のなかへ引いて入れ、なにかいろいろまじなひみたいなことをしたのち土間でこっそり飯をたべ、そのまゝころころ藁《わら》のなかだか草のなかだかうまやのちかくに寝てしまったのだ。
 もし私が何かちがったことでも云《い》ったら、そのむすこらのどの一人でも、すぐに私をかた手でおもてのくらやみに、連れ出すことはわけなささうだ。それがだまってねむってゐる。たぶんねむってゐるらしい。
 火皿が黒い油煙を揚げるその下で、一人の女が何かしきりにこしらへてゐる。酒呑童子《しゅてんどうじ》に連れて来られて洗濯などをさせられてゐるそんなかたちではたらいてゐる。どうも私の食事の支度を
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