て行ってしまった。
中では何かが細い高い声でないた。
人はだんだん増えて来た。
楽隊はまるで馬鹿のように盛んにやった。
みんなは吸いこまれるように、三人五人ずつ中へはいって行ったのだ。
ペムペルとネリとは息をこらして、じっとそれを見た。
『僕たちも入ってこうか。』ペムペルが胸をどきどきさせながら云った。
『入りましょう』とネリも答えた。
けれども何だか二人とも、安心にならなかったのだ。どうもみんなが入口で何か番人に渡《わた》すらしいのだ。
ペムペルは少し近くへ寄って、じっとそれを見た。食い付くように見ていたよ。
そしたらそれはたしかに銀か黄金《きん》かのかけらなのだ。
黄金をだせば銀のかけらを返してよこす。
そしてその人は入って行く。
だからペムペルも黄金をポケットにさがしたのだ。
『ネリ、お前はここに待っといで。僕|一寸《ちょっと》うちまで行って来るからね。』
『わたしも行くわ。』ネリは云ったけれども、ペムペルはもうかけ出したので、ネリは心配そうに半分泣くようにして、又看板を見ていたよ。
それから僕は心配だから、ネリの処に番しようか、ペムペルについて行こうか、ずいぶんしばらく考えたけれども、いくらそこらを飛んで見ても、みんな看板ばかり見ていて、ネリをさらって行きそうな悪漢は一人も居ないんだ。
そこで安心して、ペムペルについて飛んで行った。
ペムペルはそれはひどく走ったよ。四日のお月さんが、西のそらにしずかにかかっていたけれど、そのぼんやりした青じろい光で、どんどんどんどんペムペルはかけた。僕は追いつくのがほんとうに辛《つら》かった。眼がぐるぐるして、風がぶうぶう鳴ったんだ。樺《かば》の木も楊《やなぎ》の木も、みんなまっ黒、草もまっ黒、その中をどんどんどんどんペムペルはかけた。
それからとうとうあの果樹園にはいったのだ。
ガラスのお家が月のあかりで大へんなつかしく光っていた。ペムペルは一寸立ちどまってそれを見たけれども、又走ってもうまっ黒に見えているトマトの木から、あの黄いろの実のなるトマトの木から、黄いろのトマトの実を四つとった。それからまるで風のよう、あらしのように汗と動悸《どうき》で燃えながら、さっきの草場にとって返した。僕も全く疲《つか》れていた。
ネリはちらちらこっちの方を見てばかりいた。
けれどもペムペルは、
『さあ、
前へ
次へ
全10ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング