くの間見てから云いました。
「お前があの草わなを運動場にかけるようにみんなに云いつけたんだね。」
武田金一郎はしゃんとして返事しました。
「そうです。」
「あんなことして悪いと思わないか。」
「今は悪いと思います。けれどもかける時は悪いと思いませんでした。」
「どうして悪いと思わなかった。」
「お客さんを倒《たお》そうと思ったのじゃなかったからです。」
「どういう考《かんがえ》でかけたのだ。」
「みんなで障碍物《しょうがいぶつ》競争をやろうと思ったんです。」
「あのわなをかけることを、学校では禁じているのだが、お前はそれを忘れていたのか。」
「覚えていました。」
「そんならどうしてそんなことをしたのだ。こう云う工合《ぐあい》にお客さまが度々《たびたび》おいでになる。それに運動場の入口に、あんなものをこしらえて置いて、もしお客さまに万一のことがあったらどうするのだ。お前は学校で禁じているのを覚えていながら、それをするというのはどう云うわけだ。」
「わかりません。」
「わからないだろう。ほんとうはわからないもんだ。それはまあそれでよろしい。お前たちはこのお方がそのわなにつまずいて、お倒れ
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