掛《か》け下さい。」
 私はこしかけました。
「ええと、失礼ですがお職業はやはり学事の方ですか。」校長がたずねました。
「ええ、農学校の教師です。」
「本日はおやすみでいらっしゃいますか。」
「はあ、日曜です。」
「なるほどあなたの方では太陽|暦《れき》をお使いになる関係上、日曜日がお休みですな。」
 私は一寸《ちょっと》変な気がしました。
「そうするとおうちの方ではどうなるのですか。」
 狐の校長さんは青く光るそらの一ところを見あげてしずかに鬚《ひげ》をひねりながら答えました。
「左様《さよう》、左様、至極《しごく》ご尤《もっとも》なご質問です。私の方は太陰暦を使う関係上、月曜日が休みです。」
 私はすっかり感心しました、この調子ではこの学校は、よほど程度が高いにちがいない、事によると狐の方では、学校は小学校と大学校の二つきりで、或《あるい》はこの茨海小学校は、中学五年程度まで教えるんじゃないかと気がつきましたので、急いでたずねました。
「いかがですか。こちらの方では大学校へ進む生徒は、ずいぶん沢山ございますか。」
 校長さんが得意そうにまるで見当|違《ちが》いの上の方を見ながら答え
前へ 次へ
全29ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング