百姓《ひゃくしょう》の家には、こぼれて砂の入った麦や粟《あわ》や、いらない菜っ葉や何か、たくさんあるんだ。又|甘藍《キャベジ》や何かには、青むしもたかる。それをみんな鶏に食べさせる。鶏は大悦《おおよろこ》びでそれをたべる。卵もうむ。大へん得だと斯う云うがいい。』
私が云ったら、その生徒は大へん悦んで、厚く礼を述べて行った。きっとあの生徒は学芸会でそれを云ったんだ。するとみんなは勿論《もちろん》と思って早速養鶏をはじめる。大きな鶏やひよっこや沢山《たくさん》できる。そこで我々は早速本業にとりかかると斯う云うのだ。」
私は実はこの話を聞いたとき、どうしてもおかしくておかしくてたまりませんでした。その生徒というのは私の学校の二年生なのです。先頃《せんころ》学芸会があったのでしたが、その時ちゃんと、狐に遭《あ》ったことから何から、みんな話していたのです。ただおしまいが少し違《ちが》って居りました。それはその生徒の話では
「なんだお前は僕に養鶏をすすめて置いて自分がそれを捕ろうというのか。」と云ったら狐は頭をかかえて一目散に遁《に》げたというのでした。けれどもそれを私は口に出しては云いませんでした。この時丁度、向うで終業のベルが鳴りましたので、先生は、
「今日はここまでにして置きます。」と云って礼をしました。私は校長について校長室に戻りました。校長は又私の茶椀《ちゃわん》に紅茶をついで云いました。
「ご感想はいかがですか。」
私は答えました。
「正直を云いますと、実は何だか頭がもちゃもちゃしましたのです。」
校長は高く笑いました。
「アッハッハ。それはどなたもそう仰《おっしゃ》います。時に今日は野原で何かいいものをお見付けですか。」
「ええ、火山弾《かざんだん》を見附《みつ》けました。ごく不完全です。」
「一寸《ちょっと》拝見。」
私は仕方なく背嚢《はいのう》からそれを出しました。校長は手にとってしばらく見てから
「実にいい標本です。いかがです。一つ学校へご寄附《きふ》を願えませんでしょうか。」と云うのです。私は仕方なく、
「ええ、よろしゅうございます。」と答えました。
校長はだまってそれをガラス戸棚《とだな》にしまいました。
私はもう頭がぐらぐらして居たたまらなくなりました。
すると校長がいきなり、
「ではさよなら。」というのです。そこで私も
「これで失礼|
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