ょう》な上級生《じょうきゅうせい》が居ないのだ。そこで何だか今まで頭をぶっつけた低《ひく》い天井裏《てんじょううら》が無《な》くなったような気もするけれどもまた支柱《しちゅう》をみんな取《と》ってしまった桜《さくら》の木のような気もする。今日の実習《じっしゅう》にはそれをやった。去年《きょねん》の九月古い競馬場《けいばじょう》のまわりから掘って来て植《う》えておいたのだ。今ごろ支柱を取るのはまだ早いだろうとみんな思った。なぜならこれからちょうど小さな根《ね》がでるころなのに西風はまだまだ吹《ふ》くから幹《みき》がてこになってそれを切るのだ。けれども菊池《きくち》先生はみんな除《と》らせた。花が咲《さ》くのに支柱があっては見っともないと云《い》うのだけれども桜が咲くにはまだ一月もその余《よ》もある。菊池先生は春になったのでただ面白《おもしろ》くてあれを取ったのだとおもう。
その古い縄《なわ》だの冬の間のごみだの運動場《うんどうじょう》の隅《すみ》へ集《あつ》めて燃《も》やした。そこでほかの実習の組の人たちは羨《うらや》ましがった。午前中その実習をして放課《ほうか》になった。教科書がまだ来ないので明日もやっぱり実習だという。午后《ごご》はみんなでテニスコートを直《なお》したりした。
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四月二日 水曜日 晴
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今日は三年生は地質《ちしつ》と土性《どせい》の実習だった。斉藤《さいとう》先生が先に立って女学校の裏《うら》で洪積層《こうせきそう》と第《だい》三|紀《き》の泥岩《でいがん》の露出《ろしゅつ》を見てそれからだんだん土性を調《しら》べながら小船渡《こぶなと》の北上《きたかみ》の岸《きし》へ行った。河《かわ》へ出ている広い泥岩の露出で奇体《きたい》なギザギザのあるくるみの化石《かせき》だの赤い高師小僧《たかしこぞう》だのたくさん拾《ひろ》った。それから川岸を下って朝日橋《あさひばし》を渡《わた》って砂利《じゃり》になった広い河原《かわら》へ出てみんなで鉄鎚《かなづち》でいろいろな岩石の標本《ひょうほん》を集《あつ》めた。河原からはもうかげろうがゆらゆら立って向《むこ》うの水などは何だか風のように見えた。河原で分れて二時|頃《ごろ》うちへ帰った。
そして晩《ばん》まで垣根《かきね》を結《ゆ》って手伝《てつだ》った。あしたは
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