ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ
宮沢賢治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)七つの歳《とし》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)フウケーボー大|博士《はかせ》
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一、ペンネンノルデが七つの歳《とし》に太陽にたくさんの黒い棘《とげ》ができた。赤、黒い棘、父赤い眼《め》、ばくち。
二、ノルデはそれからまた十二年、森《ナスタ》のなかで昆布《こんぶ》とりをした。
三、ノルデは書記《しょき》になろうと思ってモネラの町へ出かけて行った。氷羊歯《こおりしだ》の汽車、恋人《こいびと》、アルネ。
四、フウケーボー大|博士《はかせ》はあくびといっしょにノルデの筆記帳《ひっきちょう》をすぽりとのみ込《こ》んでしまった。
五、噴火《ふんか》を海へ向《む》けるのはなかなか容易《ようい》なことでない。
化物丁場《ばけものとうじょう》、おかしなならの影《かげ》、岩頸問答《がんけいもんどう》、大博士発明のめがね。
六、さすがのフウケーボー大博士も命《いのち》からがらにげだした。
恐竜《きょうりゅう》、化石《かせき》の向こうから。
大博士に疑問《ぎもん》をいだく。噴火|係《がかり》の職《しょく》をはがれ、その火山|灰《ばい》の土壌《どじょう》を耕《たがや》す。部下《ぶか》みな従《したが》う。
七、ノルデは頭からすっかり灰をかぶってしまった。
サンムトリの噴火。ノルデ海岸《かいがん》でつかれてねむる。ナスタ現《あら》わる。夢《ゆめ》のなかでうたう。
八、ノルデは野原《のはら》にいくつも茶いろなトランプのカードをこしらえた。
ノルデ奮起《ふんき》す。水の不足《ふそく》。
九、ノルデがこさえたトランプのカードを、みんなは春は桃《もも》いろに夏は青くした。
恋人《こいびと》アルネとの結婚《けっこん》……夕方。
十、ノルデはみんなの仕事《しごと》をもっとらくにしようと考えた。そんなことをしなくってもいいよ。
おれは南の方でやって見せるよ。大|雷雨《らいう》。桜《さくら》の梢《こずえ》からセントエルモの火。暗《やみ》のなか。
十一、ノルデは三べん胴上《どうあ》げのまま地べたにべちゃんと落《お》とされた。
どうだい。ひどくいたいかい。どう? あなたひどくいたい? ノルデつかれてねむる。
十二、ノルデは太陽から黒い棘《とげ》をとるためにでかけた。
太陽がまたぐらぐらおどりだしたなあ。困《こま》るなあ。おい断《こと》わっちまえよ。奮起す。おーい、火山だなんてまるで別《べつ》だよ。ちゃんと立派《りっぱ》なビルデングになってるんだぜ。
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底本:「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫、角川書店
1957(昭和32)年11月15日初版発行
1967(昭和42)年4月5日10版発行
1993(平成5)年5月20日改版50版発行
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2006年3月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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