レの花の咲いた野原があったでしょう。実にそれはネパールの国からチベットへ入る峠《とうげ》の頂だったのです。
ネネムのすぐ前に三本の竿《さお》が立ってその上に細長い紐《ひも》のようなぼろ切れが沢山《たくさん》結び付けられ、風にパタパタパタパタ鳴っていました。
ネネムはそれを見て思わずぞっとしました。
それこそはたびたび聞いた西蔵《チベット》の魔除《まよ》けの幡《はた》なのでした。ネネムは逃《に》げ出しました。まっ黒なけわしい岩の峯《みね》の上をどこまでもどこまでも逃げました。
ところがすぐ向うから二人の巡礼《じゅんれい》が細い声で歌を歌いながらやって参ります。ネネムはあわててバタバタバタバタもがきました。何とかして早くばけもの世界に戻《もど》ろうとしたのです。
巡礼たちは早くもネネムを見つけました。そしてびっくりして地にひれふして何だかわけのわからない呪文《じゅもん》をとなえ出しました。
ネネムはまるでからだがしびれて来ました。そしてだんだん気が遠くなってとうとうガーンと気絶してしまいました。
ガーン。
それからしばらくたってネネムはすぐ耳のところで
「裁判長。裁判長。し
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