うございます。」みんなはフクジロをのこして赤山のような人をわけてちりぢりに逃《に》げてしまいました。そこでネネムは一人の検事をつけてフクジロを張子《はりこ》の虎《とら》をこさえる工場へ送りました。
 見物人はよろこんで、
「えらい裁判長だ。えらい裁判長だ。」とときの声をあげました。そこでネネムは又《また》巡視《じゅんし》をはじめました。
 それから少し行きますと通りの右側に大きな泥《どろ》でかためた家があって世界警察長|官邸《かんてい》と看板が出て居りました。
「一寸はいって見よう。」と云いながらネネムは玄関《げんかん》に立ちました。その家中が俄《にわ》かにザワザワしてそれから警察長がさきに立って案内しました。一通り中の設備を見てからネネムは警察長と向い合って一つのテーブルに座りました。警察長は新聞のくらいある名刺《めいし》を出してひろげてネネムに恭々《うやうや》しくよこしました。見ると、
 ケンケンケンケンケンケン・クエク警察長
と書いてあります。ネネムは
「はてな、クエクと、どうも聞いたような名だ。一寸突然ですがあなたはこの近在の農家のご出身ですか。」と云いました。
 すると警察長
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