んなかたわなあわれなものをだしにして、一銭のマッチを十円ずつに売っている。さあ監獄へ連れて行くぞ。」
 親方が泣き出しそうになって口早に云いました。
「お役人さん。そいつぁあんまり無理ですぜ。わしぁ一日|一杯《いっぱい》あるいてますがやっと喰《く》うだけしか貰わないんです。あとはみんな親方がとってしまうんです。」
「ふん、そうか。その親方はどこに居るんだ。」
「あすこに居ます。」
「どれだ。」
「あのまがり角でそらを向いてあくびをしている人です。」
「よし。あいつをしばれ。」まがり角の男は、しばられてびっくりして、口をパクパクやりました。ネネムは二人を連れてそっちへ歩いて行って云いました。
「こらきさまは悪いやつだ。何も文句を云《い》うことはない。監獄にはいれ。」
「これはひどい。一体どうしたのです。ははあ、フクジロもタンイチもしばられたな。その事ならなあに私はただこうやって監督《かんとく》に云いつかって車を見ている丈《だけ》でございます。私は日給三十銭の外に一銭だって貰やしません。」
「ふん。どうも実にいやな事件だ。よし、お前の監督はどこに居るか、云え。」
「向うの電信柱の下で立った
前へ 次へ
全61ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング