思ってもっと見ていますと、そのいやなものはマッチを持ってよちよち歩き出しました。
赤山のようなばけものの見物は、わいわいそれについて行きます。一人の若いばけものが、うしろから押されてちょっとそのいやなものにさわりましたら、そのフクジロといういやなものはくるりと振り向いて、いきなりピシャリとその若ばけものの頬《ほっ》ぺたを撲《なぐ》りつけました。
それからいやなものは向うの荒物《あらもの》屋に行きました。その荒物屋というのは、ばけもの歯みがきや、ばけもの楊子《ようじ》や、手拭《てぬぐい》やずぼん、前掛《まえかけ》などまで、すべてばけもの用具一式を売っているのでした。
フクジロがよちよちはいって行きますと、荒物屋のおかみさんは、怖《こわ》がって逃《に》げようとしました。おかみさんだって顔がまるで獏《ばく》のようで、立派なばけものでしたが、小さくてしわくちゃなフクジロを見ては、もうすっかりおびえあがってしまったのでした。
「おかみさん。フクジロ・マッチ買ってお呉れ。」
おかみさんはやっと気を落ちつけて云いました。
「いくらですか。ひとつ。」
「十円。」
おかみさんは泣きそうになりま
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