エクや。よく帰っておいでだね。まあ、お前はわたしを忘れてしまったのかい。ああなさけない。」
 ネネムは少し面くらいましたが、ははあ、これはきっと人ちがいだと気がつきましたので急いで云いました。
「いいえ、おかみさん。私はクエクという人ではありません。私はペンネンネンネンネン・ネネムというのです。」
 するとその橙《だいだい》色の女のばけものはやっと気がついたと見えて俄《にわ》かに泣き顔をやめて云いました。
「これはどうもとんだ失礼をいたしました。あなたのおなりがあんまりせがれそっくりなもんですから。」
「いいえ。どう致《いた》しまして。私は今度はじめてムムネの市に出る処《ところ》です。」
「まあ、そうでしたか。うちのせがれも丁度あなたと同じ年ころでした。まあ、お髪《くし》のちぢれ工合《ぐあい》から、お耳のキラキラする工合、何から何までそっくりです。それにまあ、なめくじばけもの[#「なめくじばけもの」に傍線]のような柔《やわ》らかなおあしに、硬《かた》いはがねのわらじをはいて、なにが御志願でいらしゃるのやら。おお、うちのせがれもこんなわらじでどこを今ごろ、ポオ、ポオ、ポオ、ポオ。」とその
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