がたに云い渡《わた》す。これは順ぐりに悪いことがたまって来ているのだ。百年も二百年もの前に貸した金の利息を、そんなハイカラななりをして、毎日ついてあるいてとるということは、けしからん。殊《こと》にそれが三十人も続いているというのは実にいけないことだ。おまえたちはあくびをしたりいねむりをしたりしながら毎日を暮《くら》して食事の時間だけすぐ近くの料理屋にはいる、それから急いで出て来て前の者がまだあまり遠くへ行っていないのを見てやっと安心するなんという実にどうも不届きだ。それからおれがもうけるんじゃないと云うので、悪いことをぐんぐんやるのもあまりよくない。だからみんな悪い。みんなを罪にしなければならない。けれどもそれではあんまりかあいそうだから、どうだ、みんな一ぺんに今の仕事をやめてしまえ。そこでフクジロはおれがどこかの玩具《おもちゃ》の工場の小さな室《へや》で、ただ一人仕事をして、時々お菓子《かし》でもたべられるようにしてやろう。あとのものはみんな頑丈《がんじょう》そうだから自分で勝手に仕事をさがせ。もしどうしても自分でさがせなかったらおれの所に相談に来い。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」みんなはフクジロをのこして赤山のような人をわけてちりぢりに逃《に》げてしまいました。そこでネネムは一人の検事をつけてフクジロを張子《はりこ》の虎《とら》をこさえる工場へ送りました。
 見物人はよろこんで、
「えらい裁判長だ。えらい裁判長だ。」とときの声をあげました。そこでネネムは又《また》巡視《じゅんし》をはじめました。
 それから少し行きますと通りの右側に大きな泥《どろ》でかためた家があって世界警察長|官邸《かんてい》と看板が出て居りました。
「一寸はいって見よう。」と云いながらネネムは玄関《げんかん》に立ちました。その家中が俄《にわ》かにザワザワしてそれから警察長がさきに立って案内しました。一通り中の設備を見てからネネムは警察長と向い合って一つのテーブルに座りました。警察長は新聞のくらいある名刺《めいし》を出してひろげてネネムに恭々《うやうや》しくよこしました。見ると、
 ケンケンケンケンケンケン・クエク警察長
と書いてあります。ネネムは
「はてな、クエクと、どうも聞いたような名だ。一寸突然ですがあなたはこの近在の農家のご出身ですか。」と云いました。
 すると警察長はびっくりしたらしく、
「全くご明察の通りです。」と答えました。
「それではあなたは無断で家から逃げておいでになりましたね。お母さんが大へん泣いておいでですよ。」とネネムが云いました。
「いや、全く。実は昨晩も電報を打ちましたようなわけで、実はその、逃げたというわけでもありません。丁度一昨昨日の朝、一寸した用事で家から大学校の小使室まで参りましたのですが、ついそのフゥフィーボー博士の講義につり込まれまして昨日まで三日というもの、聴《き》いたり落第したり、考えたりいたしました。昨晩やっと及第《きゅうだい》いたしましてこちらに赴任《ふにん》いたしました。」
「ハッハッハ。そうですか。それは結構でした。もう電報をおかけでしたか。」
「はい。」
 そこでネネムも全く感服してそれから警察長の家を出てそれから又グルグルグルグル巡視をして、おひるごろ、ばけもの世界裁判長の官邸に帰りました。おひるのごちそうは藁《わら》のオムレツでした。

   四、ペンネンネンネンネン・ネネムの安心

 ばけもの世界裁判長、ペンネンネンネンネン・ネネムの評判は、今はもう非常なものになりました。この世界が、はじめ一|疋《ぴき》のみじんこから、だんだん枝《えだ》がついたり、足が出来たりして発達しはじめて以来、こんな名判官は実にはじめてだとみんなが申しました。
 シャァロンというばけものの高利貸でさえ、ああ実にペンネンネンネンネン・ネネムさまは名判官だ、ダニーさまの再来だ、いやダニーさまの発達だとほめた位です。
 ばけもの世界長からは、毎日一つずつ位をつけて来ましたし、勲章《くんしょう》を贈《おく》ってよこしましたので、今はその位を読みあげるだけに二時間かかり、勲章はネネムの室《へや》の壁《かべ》一杯になりました。それですから、何かの儀式《ぎしき》でネネムが式辞を読んだりするときは、その位を読むのがつらいので、それをあらかじめ三十に分けて置いて、三十人の部下に一ぺんにがやがやと読み上げて貰《もら》うようにしていましたが、それでさえやはり四分はかかりました。勲章だってその通りです。どうしてネネムの胸につけ切れるもんではありませんでしたから、ネネムの大礼服の上着は、胸の処《ところ》から長さ十|米《メートル》ばかりの切れがずうと続いて、それに勲章をぞろっとつけて、その帯のようなものを、三十人の部下の人たちがぞ
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