ね。」と云いながら、テジマアはそのわかばけものの手を取って、五六ぺんぶらぶら振《ふ》りました。
「テジマア、テジマア!」
「うまいぞ、テジマア!」みんなはどっとはやしました。
舞台《ぶたい》の上の二人は、手を握ったまま、ふいっとおじぎをして、それから、
「バラコック、バララゲ、ボラン、ボラン、ボラン」と変な歌を高く歌いながら、幕の中に引っ込んで行きました。
ボロン、ボロン、ボロロンと、どらが又鳴りました。
舞台が月光のようにさっと青くなりました。それからだんだんのんびりしたいかにも春らしい桃色に変りました。
まっ黒な着物を着たばけものが右左から十人ばかり大きなシャベルを持ったりきらきらするフォークをかついだりして出て来て
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「おキレの角《つの》はカンカンカン
ばけもの麦はベランべランベラン
ひばり、チッチクチッチクチー
フォークのひかりはサンサンサン。」
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とばけもの世界の農業の歌を歌いながら畑を耕したり種子を蒔《ま》いたりするようなまねをはじめました。たちまち床からベランベランベランと大きな緑色のばけもの麦の木が生え出して見る間に立派な茶色の穂《ほ》を出し小さな白い花をつけました。舞台は燃えるように赤く光りました。
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「おキレの角はケンケンケン
ばけもの麦はザランザララ
とんびトーロロトーロロトー、
鎌《かま》のひかりは シンシンシン。」
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とみんなは足踏《あしぶ》みをして歌いました。たちまち穂は立派な実になって頭をずうっと垂れました。黒いきもののばけものどもはいつの間にか大きな鎌を持っていてそれをサクサク刈《か》りはじめました。歌いながら踊《おど》りながら刈りました。見る見る麦の束《たば》は山のように舞台のまん中に積みあげられました。
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「おキレの角はクンクンクン
ばけもの麦はザック、ザック、ザ、
からすカーララ、カーララ、カー、
唐箕《とうみ》のうなりはフウララフウ。」
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みんなはいつの間にか棒を持っていました。そして麦束はポンポン叩かれたと思うと、もうみんな粒《つぶ》が落ちていました。麦稈《むぎから》[#「麦稈《むぎから》」に傍線]は青いほのおをあげてめらめらと燃え、あとには黄色な麦粒の小山が残
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