顔を物凄《ものすご》く照らし、見物のものはみんなはらはらしていました。
「仲々|勇壮《ゆうそう》だね。」とネネムは云いました。
 そのうちにとうとう、一人はバアと音がして肩《かた》から胸から腰《こし》へかけてすっぽりと斬《き》られて、からだがまっ二つに分れ、バランチャンと床《ゆか》に倒《たお》れてしまいました。
 斬った方は肩を怒《いか》らせて、三べん刀を高くふり廻《まわ》し、紫色《むらさきいろ》の烈《はげ》しい火花を揚《あ》げて、楽屋へはいって行きました。
 すると倒れた方のまっ二つになったからだがバタッと又一つになって、見る見る傷口がすっかりくっつき、ゲラゲラゲラッと笑って起きあがりました。そして頭をほんのすこし下げてお辞儀をして、
「まだ傷口がよくくっつきませんから、粗末《そまつ》なおじぎでごめんなさい。」と云いながら、又ゲラゲラゲラッと笑って、これも楽屋へはいって行きました。
 ボロン、ボロン、ボロロン、とどらが鳴りました。一つの白いきれを掛《か》けた卓子《テーブル》と、椅子《いす》とが持ち出されました。眼のまわりをまっ黒に塗《ぬ》った若いばけものが、わざと少し口を尖《とが》らして、テーブルに座《すわ》りました。白い前掛をつけたばけものの給仕が、さしわたし四尺ばかりあるまっ白の皿《さら》を、恭々しく持って来て卓子の上に置きました。
「フォーク!」と椅子にかけた若ばけものがテーブルを叩《たた》きつけてどなりました。
「へい。これはとんだ無調法を致しました。ただ今、すぐ持って参ります。」と云いながら、その給仕は二尺ばかりあるホークを持って参りました。
「ナイフ!」と又若ばけものはテーブルを叩いてどなりました。
「へい。これはとんだ無調法を致しました。ただ今、すぐ持って参ります。」と云いながらその給仕は、幕のうしろにはいって行って、長さ二尺ばかりあるナイフを持って参りました。ところがそのナイフをテーブルの上に置きますと、すぐ刃がくにゃんとまがってしまいました。
「だめだ、こんなもの。」とその椅子にかけたばけものは、ナイフを床に投げつけました。
 ナイフはひらひらと床に落ちて、パッと赤い火に燃えあがって消えてしまいました。
「へい。これは無調法致しました。ただ今のはナイフの広告でございました。本物のいいのを持って参ります。」と云いながら給仕は引っ込《こ》んで行きまし
前へ 次へ
全31ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング