ろぞろ持って行くのでした。さてネネムは、この様な大へんな名誉《めいよ》を得て、そのほかに、みなさんももうご存知でしょうが、フゥフィーボー博士のほかに、誰《たれ》も決して喰べてならない藁のオムレツまで、ネネムは喰べることを許されていました。それですから、誰が考えてもこんな幸福なことがない筈《はず》だったのですが、実はネネムは一向面白くありませんでした。それというのは、あのネネムが八つの飢饉《ききん》の年、お菓子の籠《かご》に入れられて、「おおホイホイ、おおホイホイ。」と云いながらさらって行かれたネネムの妹のマミミのことが、一寸も頭から離れなかった為《ため》です。
 そこでネネムは、ある日、テーブルの上の鈴《リン》をチチンと鳴らして、部下の検事を一人、呼びました。
「一寸君にたずねたいことがあるのだが。」
「何でございますか。」
「膝《ひざ》やかかとの骨の、まだ堅《かた》まらない小さな女の子をつかう商売は、一体どんな商売だろう。」
 検事はしばらく考えてから答えました。
「それはばけもの奇術《きじゅつ》でございましょう。ばけもの奇術師が、よく十二三位までの女の子を、変身術だと申して、ええこんどは犬の形、ええ今度は兎《うさぎ》の形などと、ばけものをしんこ細工のように延ばしたり円めたり、耳を附《つ》けたり又とったり致《いた》すのをよく見受けます。」
「そうか。そして、そんなやつらは一体世界中に何人位あるのかな。」
「左様。一昨年の調べでは、奇術を職業にしますものは、五十九人となって居《お》りますが、只今《ただいま》は大分減ったかと存ぜられます。」
「そうか。どうもそんなしんこ細工のようなことをするというのは、この世界がまだなめくじでできていたころの遺風だ。一寸視察に出よう。事によると禁止をしなければなるまい。」
 そこでネネムは、部下の検事を随《したが》えて、今日もまちへ出ました。そして検事の案内で、まっすぐに奇術大一座のある処に参りました。奇術は今や丁度まっ最中です。
 ネネムは、検事と一緒《いっしょ》に中へはいりました。楽隊が盛《さか》んにやっています。ギラギラする鋼《はがね》の小手だけつけた青と白との二人のばけものが、電気|決闘《けっとう》というものをやっているのでした。剣《けん》がカチャンカチャンと云うたびに、青い火花が、まるで箒《ほうき》のように剣から出て、二人の
前へ 次へ
全31ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング