いたのだ。その生徒が云《い》った。
「ずいぶん豚というものは、奇体《きたい》なことになっている。水やスリッパや藁《わら》をたべて、それをいちばん上等な、脂肪や肉にこしらえる。豚のからだはまあたとえば生きた一つの触媒《しょくばい》だ。白金と同じことなのだ。無機体では白金だし有機体では豚なのだ。考えれば考える位、これは変になることだ。」
 豚はもちろん自分の名が、白金と並べられたのを聞いた。それから豚は、白金が、一匁《いちもんめ》三十円することを、よく知っていたものだから、自分のからだが二十貫で、いくらになるということも勘定《かんじょう》がすぐ出来たのだ。豚はぴたっと耳を伏《ふ》せ、眼を半分だけ閉じて、前肢《まえあし》をきくっと曲げながらその勘定をやったのだ。
 20×1000×30=600000 実に六十万円だ。六十万円といったならそのころのフランドンあたりでは、まあ第一流の紳士《しんし》なのだ。いまだってそうかも知れない。さあ第一流の紳士だもの、豚がすっかり幸福を感じ、あの頭のかげの方の鮫《さめ》によく似た大きな口を、にやにや曲げてよろこんだのも、けして無理とは云われない。
 ところが
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