て私に軽く会釈してまだ立ちながら向うを見て云いました。
「おやおやみんな改宗しましたね、あんまりあっけない、おや椅子も丁度いい、はてな一つあいてる、そうだ、さっきのヒルガードに似た人だけまだ頑張《がんば》ってる。」
なるほどさっきのおしまいの喜劇役者に肖《に》た人はたった一人異教徒席に座って腕《うで》を組んだり髪を掻《か》きむしったりいかにも仰山《ぎょうさん》なのでみんなはとうとうひどく笑いました。
「あの男の煩悶《はんもん》なら一体何だかわからないですな。」陳氏が云いました。
ところがとうとうその人は立ちあがりました。そして壇にのぼりました。
「諸君、私は誤っていた。私は迷っていたのです。私は今日からビジテリアンになります。いや私は前からビジテリアンだったような気がします。どうもさっきまちがえて異教徒席に座りそのためにあんな反対演説をしたらしいのです。諸君許したまえ。且《か》つ私考えるに本日異教徒席に座った方はみんな私のように席をちがえたのだろうと思う。どうもそうらしい。その証拠《しょうこ》には今はみんな信者席に座っている。どうです、前異教徒諸氏そうでしょう。」
私の愕《おどろ
前へ
次へ
全76ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング