ものではない。私の奉ずる神学はただ二言にして尽《つく》す。ただ一なるまことの神はいまし給《たま》う、それから神の摂理《せつり》ははかるべからずと斯《こ》うである。これに賛せざる諸君よ、諸君は尚《なお》かの中世の煩瑣哲学《はんさてつがく》の残骸《ざんがい》を以《もっ》てこの明るく楽しく流動|止《や》まざる一千九百二十年代の人心に臨《のぞ》まんとするのであるか。今日宗教の最大要件は簡潔である。吾人《ごじん》の哲学はこの二語を以て既《すで》に千六百万人の世界各地に散在する信徒を得た。否《いな》、凡《およ》そ神を信ずる者にしてこの二語を奉ぜざるものありや、細部の諍論《そうろん》は暫《しば》らく措《お》け、凡そ何人《なんぴと》か神を信ずるものにしてこの二語を否定するものありや。」咆哮《ほうこう》し終ってマットン博士は卓を打ち式場を見廻《みまわ》しました。満場|森《しん》として声もなかったのです。博士は続けました。
「讃《たた》うべきかな神よ。神はまことにして変り給わない、神はすべてを創《つく》り給うた。美しき自然よ。風は不断のオルガンを弾じ雲はトマトの如《ごと》く又|馬鈴薯《ばれいしょ》の如くで
前へ 次へ
全76ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング