てた肥《ふと》った丈《たけ》の高い人が東洋風に形容しましたら正に怒髪《どはつ》天を衝《つ》くという風で大股《おおまた》に祭壇に上って行きました。私たちは寛大《かんだい》に拍手しました。
 祭司が一人出てその人と並《なら》んで紹介しました。
「このお方は神学博士ヘルシウス・マットン博士でありましてカナダ大学の教授であります。この度《たび》はシカゴ畜産組合の顧問《こもん》として本大祭に御出席を得只今より我々の主張の不備の点を御指摘《ごしてき》下さる次第であります。一寸《ちょっと》紹介申しあげます。」とこう云うのでありました。私たちは寛大に拍手しました。
 マットン博士はしずかにフラスコから水を呑《の》み肩《かた》をぶるぶるっとゆすり腹を抱《かか》えそれから極《きわ》めて徐《おもむ》ろに述べ始めました。
「ビジテリアン同情派諸君。本日はこの光彩ある大祭に出席の栄を得ましたことは私の真実光栄とする処《ところ》であります。
 就《つい》てはこれより約五分間私の奉ずる神学の立場より諸氏の信条を厳正に批判して見たいと思うのであります。然《しか》るに私の奉ずる神学とは然《しか》く狭隘《きょうあい》なる
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