百分の一にもならないのだ、偽善《ぎぜん》と云おうか無智と云おうかとても話にならない。本とうに動物が可あいそうなら植物を喰べたり殺したりするのも廃《よ》し給《たま》え。動物と植物とを殺すのをやめるためにまず水と食塩だけ呑《の》み給え。水はごくいい湧水《わきみず》にかぎる、それも新鮮な処《ところ》にかぎる、すこし置いたんじゃもうバクテリアが入るからね、空気は高山や森のだけ吸い給え、町のはだめだ。さあ諸君みんなどこかしんとした山の中へ行っていい空気といい水と岩塩でもたべながらこのビジテリアン大祭をやるようにし給え。ここの空気は吸っちゃいけないよ。吸っちゃいけないよ。」
拍手は起り、笑声も起りましたが多くの人はだまって考えていました。その男はもう大得意でチラッとさっき懺悔《ざんげ》してビジテリアンになった友人の方を見て自分の席へ帰りました。すると私の愕《おどろ》いたことはこの時まで腕《うで》を拱《こまね》いてじっと座《すわ》っていた陳《ちん》氏がいきなり立って行ったことでした。支那《しな》服で祭壇に立ってはじめて私の顔を見て一寸かすかに会釈《えしゃく》しました。それから落ち着いて流暢《りゅう
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