沢山贈られる訳です。どうです。おわかりになったらあなたもビジテリアンにおなりなさい。」
 すると前の論士が立ちあがりました。大へん悔悟《かいご》したような顔はしていましたが何だかどこか噴《ふ》き出したいのを堪《こら》えていたようにも見えました。しょんぼり壇《だん》に登って来て
「悔悟します。今日から私もビジテリアンになります。」と云《い》って今の青年の手をとったのでした。みんなは実にひどく拍手しました。二人は連れ立って私たちの方へ下り技師もその空いた席へ腰《こし》かけて肩《かた》ですうすう息をしていました。ところが勿論《もちろん》この事の為に異教席の憤懣《ふんまん》はひどいものでした。一人のやっぱり技師らしい男がずいぶん粗暴《そぼう》な態度で壇に昇《のぼ》りました。
「諸君、私の疑問に答えたまえ。
 動物と植物との間には確たる境界がない。パンフレットにも書いて置いた通りそれは人類の勝手に設けた分類に過ぎない。動物がかあいそうならいつの間にか植物もかあいそうになる筈だ。動物の中の原生動物と植物の中の細菌《さいきん》類とは殆《ほと》んど相密接せるものである。又動物の中にだってヒドラや珊瑚《
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