中から髪《かみ》を長くしたせいの低い男がいきなり異教席を立って壇に登りました。
「私はやはりシカゴ畜産組合の技師です。諸君、今朝のマルサス人口論を基とした議論は読んで下すったでしょう。どうですそれにちがいありますまい。地球上の人類の食物の半分は動物で半分は植物です。そのうち動物を喰《た》べないじゃ食物が半分になる。たださえ食物が足りなくて戦争だのいろいろ騒動《そうどう》が起ってるのに更にそれを半分に縮減しようというのはどんなほかに立派な理くつがあっても正気の沙汰《さた》と思われない。人間の半分十億人が食物がなくて死んでしまう、死ぬ前にはいろいろ大騒ぎが起るその時ビジテリアンたちはどうします。自分たちの起した戦争の中へはいってわれらの敵国を打ち亡《ほろ》ぼせと云って鉄砲《てっぽう》や剣を持って突貫《とっかん》しますか。それともああこんな筈《はず》じゃなかった神よと云ってみんな一緒《いっしょ》にナイヤガラかどこかへ飛び込みますか。そんなことをしたって追い付きません。いや、それよりもこんなことになるのはどこの国の政治家でもすぐわかる、これはいかんと云うわけでお気の毒ながら諸君をみんな終身|懲
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