たが祭司次長が割合前の方のモオニングの若い人をさしまねきました。その人は落ち着いた風で少し微笑《わら》いながら演説しました。
「只今《ただいま》のご質問はいかにもご尤《もっとも》であります。多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾《いかん》乍《なが》らそれはみな実験になって居りません。
 動物は衝動と本能ばかりだと仰っしゃいましたがまあそうして置きます。その本能や衝動が生きたいということで一杯《いっぱい》です。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には充分《じゅうぶん》であります。然《しか》しながら更《さら》に詳しいことは動物心理学の沢山《たくさん》の実験がこれを提供致すだろうと思います。又実は動物は本能と衝動ばかりではないのであります。今朝のパンフレットで見ましても生物は一つの大きな連続であると申されました。人間の心もちがだんだん人間に近いものから遠いものに行われて居ります。人間の苦しいことは感覚のあるものはやっぱりみんな苦しい人間の悲しいことは強い弱いの区別はあってもやっぱりどの動物も悲しいのです。仲々あのパンフレットにある豚《ぶた》のように愉快《ゆかい》には行かないのであります
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