どもがみなさんにさしあげて置いた五六枚のパンフレットはどなたも大抵お読み下すった事と思う。私はたしかに評判の通りシカゴ畜産《ちくさん》組合の理事で又《また》屠畜《とちく》会社の技師です。ところが正直のところシカゴ畜産組合がこのビジテリアン大祭を決して苦にするわけはない。何となれば只今前論者の云われたようなトラピスト風の人間というものは今日全人類の一万分一もあるもんじゃない。やっぱりあたり前の人間には肉類は食料として滋養《じよう》も多く美味である。ビジテリアン諸氏が折角《せっかく》菜食を実行し又宣伝するのを見た処《ところ》で感服はしても容易に真似《まね》はしない。則ち肉類の需要が減ずるものでもなし又私たちの組合がこわれたり会社が破産したりするものではない。だから一向反対宣伝も要《い》らなければこの軽業《かるわざ》テントの中に入って異教席というこの光栄ある場所に私が数時間|窮屈《きゅうくつ》をする必要もない。然しながら実は私は六月からこちらへ避暑《ひしょ》に来て居《お》りました。そしてこの大祭にぶっつかったのですから職業|柄《がら》私の方ではほんの余興のつもりでしたが少し邪魔《じゃま》を入
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