ちょう》な英語で反駁《はんぱく》演説をはじめたのです。
「只今《ただいま》のご論旨《ろんし》は大へん面白いので私も早速空気を吸うのをやめたいと思いましたがその前に一寸一言ご返事をしたいと存じます。どうぞその間空気を吸うことをお許し下さい。
さて只今のご論旨ではビジテリアンたるものすべからく無菌の水と岩石ぐらいを喰べて海抜《かいばつ》二千尺以上ぐらいの高い処に生活すべしというのでありましたが、なるほど私共の中には一酸化炭素と水とから砂糖を合成する事をしきりに研究している人もあります。けれども茲《ここ》ではまず生物連続が面白かったようですからそれを色々応用して見ます。則ち人類から他の哺乳類鳥類|爬虫《はちゅう》類魚類それから節足動物とか軟体《なんたい》動物とか乃至《ないし》原生動物それから一転して植物、の細菌類、それから多細胞《たさいぼう》の羊歯《しだ》類|顕花《けんか》植物と斯《こ》う連続しているからもし動物がかあいそうなら生物みんな可哀《かあい》そうになれ、顕花植物なども食べても切ってもいかんというのですが、連続をしているものはまだいろいろあります。仮令《たとえ》ば人間の一生は連続している、嬰児《えいじ》期幼児期少年少女期青年処女期壮年期老年期とまあ斯うでしょう、ところが実はこれは便宜《べんぎ》上勝手に分類したので実は連続しているはっきりした堺《さかい》はない、ですから、若《も》し四十になる人が代議士に出るならば必ず生れたばかりの嬰児も代議士を志願してフロックコートを着て政見を発表したり燕尾服《えんびふく》を着て交際したりしなければいけない、又小学校の一年生にエービースィーを教えるなら大学校でもなぜ文学より見たる理論化学とか、相対性学説の難点とかそんなことばかりやってエービースィーを教えないか、と斯う云うことになります。或《あるい》は他《ほか》の例を以《もっ》てするならば元来変態心理と正常な心理とは連続的でありますから人類は須《すべから》く瘋癲《ふうてん》病院を解放するか或はみんな瘋癲病院に入らなければいけないと斯うなるのであります。この変てこな議論が一見菜食にだけ適用するように思われるのはそれは思う人がまだこの問題を真剣に考え真実に実行しなかった証拠《しょうこ》であります。斯んなことはよくあるのです。
いくら連続していてもその両端《りょうたん》では大分ちがって
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