がもうそのときはいけませんでした。そらがすっかり赤味《あかみ》を帯《お》びた鉛《なまり》いろに変《かわ》ってい海の水はまるで鏡《かがみ》のように気味《きみ》わるくしずまりました。
おまけに水平線《すいへいせん》の上のむくむくした雲の向《むこ》うから鉛いろの空のこっちから口のむくれた三|疋《びき》の大きな白犬に横《よこ》っちょにまたがって黄いろの髪《かみ》をばさばささせ大きな口をあけたり立てたりし歯《は》をがちがち鳴らす恐《おそ》ろしいばけものがだんだんせり出して昇《のぼ》って来ました。もうタネリは小さくなって恐《おそ》れ入っていましたらそらはすっかり明るくなりそのギリヤークの犬神《いぬがみ》は水平線まですっかりせり出し間もなく海に犬の足がちらちら映《うつ》りながらこっちの方へやって来たのです。
「おっかさん、おっかさん。おっかさん。」タネリは陸《りく》の方へ遁《に》げながら一生けん命《めい》叫《さけ》びました。すると犬神はまるでこわい顔をして口をぱくぱくうごかしました。もうまるでタネリは食われてしまったように思ったのです。「小僧《こぞう》、来い。いまおれのとこのちょうざめの家に下男《
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