それを消《け》すから。おまえの兄さんもいつかひどい眼《め》にあったから。」「そんなものおれとらない。」タネリは云《い》いながら黒く熟《じゅく》したこけももの間の小さなみちを砂《すな》はまに下りて来ました。波《なみ》がちょうど減《ひ》いたとこでしたから磨《みが》かれたきれいな石は一列《いちれつ》にならんでいました。「こんならもう穴石《あないし》はいくらでもある。それよりあのおっ母《かあ》の云ったおかしなものを見てやろう。」タネリはにがにが笑《わら》いながらはだしでそのぬれた砂をふんで行きました。すると、ちゃんとあったのです。砂の一とこが円《まる》くぽとっとぬれたように見えてそこに指《ゆび》をあててみますとにくにく寒天のようなつめたいものでした。そして何だか指がしびれたようでした。びっくりしてタネリは指を引っ込《こ》めましたけれども、どうももうそれをつまみあげてみたくてたまらなくなりました。拾《ひろ》ってしまいさえしなければいいだろうと思ってそれをすばやくつまみ上げましたら砂がすこしついて来ました。砂をあらってやろうと思ってタネリは潮水《しおみず》の来るとこまで下りて行って待《ま》っていま
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