ルしました。
 猫大将が言いました。
「教えてやってくれ。おもに算術をな。」
「へい。しょう、しょう、承知いたしました。」とクねずみが答えました。
 猫大将はきげんよくニャーと鳴いてするりと向こうへ行ってしまいました。
 子供らが叫びました。
「先生、早く算術を教えてください。先生。早く。」
 クねずみはさあ、これはいよいよ教えないといかんと思いましたので、口早に言いました。
「一に一をたすと二です。」
「そうだよ。」子供らが言いました。
「一から一を引くとなんにもなくなります。」
「わかったよ。」
 子供らが叫びました。
「一に一をかけると一です。」
「きまってるよ。」と猫の子供らが目をりんと張ったまま答えました。
「一を一で割ると一です。」
「それでいいよ。」と猫の子供らがよろこんで叫びました。そこでクねずみはすっかりのぼせてしまいました。
「一に二をたすと三です。」
「合ってるよ。」
「一から二を引くと……」と言おうとしてクねずみは、はっとつまってしまいました。
 すると猫の子供らは一度に叫びました。
「一から二は引かれないよ。」
 クねずみはあんまり猫の子供らがかしこいので、すっかりむしゃくしゃして、また早口に言いました。そうでしょう。クねずみはいちばんはじめの一に一をたして二をおぼえるのに半年かかったのです。
「一に二をかけると二です。」
「そうともさ。」
「一を二で割ると……。」クねずみはまたつまってしまいました。すると猫の子供らはまた一度に声をそろえて、
「一割る二では半分だよ。」と叫びました。
 クねずみはあんまり猫《ねこ》の子供らの賢いのがしゃくにさわって、思わず「エヘン。エヘン。エイ。エイ。」
とやりました。すると猫の子供らは、しばらくびっくりしたように、顔を見合わせていましたが、やがてみんな一度に立ちあがって、
「なんだい。ねずめ、人をそねみやがったな。」と言いながらクねずみの足を一ぴきが一つずつかじりました。
 クねずみは非常にあわててばたばたして、急いで「エヘン、エヘン、エイ、エイ。」とやりましたがもういけませんでした。
 クねずみはだんだん四方の足から食われて行って、とうとうおしまいに四ひきの子猫は、クねずみの胃の腑《ふ》のところで頭をコツンとぶっつけました。
 そこへ猫大将が帰って来て、
「何か習ったか。」とききました。
「ねずみをとることです。」と四ひきがいっしょに答えました。



底本:「童話集 銀河鉄道の夜 他十四編」谷川徹三編、岩波文庫、岩波書店
   1951(昭和26)年10月25日第1刷発行
   1966(昭和41)年7月16日第18刷改版発行
   2000(平成12)年5月25日第71刷発行
底本の親本:「宮沢賢治全集 第八巻」筑摩書房
   1956(昭和31)年10月
入力:のぶ
校正:鈴木厚司
2003年8月3日作成
2008年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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