ちはそれを汀《なぎさ》まで持って行って洗ひそれからそっと新聞紙に包みました。大きなのは三貫目もあったでせう。掘り取るのが済んであの荒い瀬の処から飛び込んで行くものもありました。けれども私はその溺《おぼ》れることを心配しませんでした。なぜなら生徒より前に、もう校長が飛び込んでゐてごくゆっくり泳いで行くのでしたから。
 しばらくたって私たちはみんなでそれを持って学校へ帰りました。そしてさっきも申しましたやうにこれは昨日のことです。今日は実習の九日目です。朝から雨が降ってゐますので外の仕事はできません。うちの中で図を引いたりして遊ばうと思ふのです。これから私たちにはまだ麦こなしの仕事が残ってゐます。天気が悪くてよく乾かないで困ります。麦こなしは芒《のぎ》がえらえらからだに入って大へんつらい仕事です。百姓の仕事の中ではいちばんいやだとみんなが云ひます。この辺ではこの仕事を夏の病気とさへ云ひます。けれども全くそんな風に考へてはすみません。私たちはどうにかしてできるだけ面白くそれをやらうと思ふのです。[#地付き](一九二三、八、九、)



底本:「新修宮沢賢治全集 第十四巻」筑摩書房
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