たいよう》マジックの歌はそらにも地面《ちめん》にもちからいっぱい、日光の小さな小さな菫《すみれ》や橙《だいだい》や赤の波《なみ》といっしょに一生《いっしょう》けん命《めい》に鳴っています。カイロ男爵《だんしゃく》だって早く上等《じょうとう》の絹《きぬ》のフロックを着《き》て明るいとこへ飛《と》びだすがいいでしょう。
楊《やなぎ》の木の中でも樺《かば》の木でも、またかれくさの地下茎《ちかけい》でも、月光いろの甘《あま》い樹液《じゅえき》がちらちらゆれだし、早い萱草《かんぞう》やつめくさの芽《め》にはもう黄金《きん》いろのちいさな澱粉《でんぷん》の粒《つぶ》がつうつう浮《う》いたり沈《しず》んだりしています。
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(※[#ト音記号、49−8]‥‥‥
コロナは三十七万十九
※[#ト音記号、49−10]‥‥‥
※[#ト音記号、49−11]‥‥‥ )
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くずれかかった煉瓦《れんが》の肥溜《こえだめ》の中にはビールのように泡《あわ》がもりあがっています。さあ順番《じゅんばん》に桶《おけ》に汲《く》み込《こ》もう。そこらいっぱいこんなにひどく明るくて、ラジウムよりももっとはげしく、そしてやさしい光の波《なみ》が一生けん命一生けん命ふるえているのに、いったいどんなものがきたなくてどんなものがわるいのでしょうか。もうどんどん泡《あわ》があふれ出してもいいのです。青ぞらいっぱい鳴っているあのりんとした太陽《たいよう》マジックの歌をお聴《き》きなさい。
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(コロナは六十七万四千
※[#ト音記号、50−6]‥‥‥
※[#ト音記号、50−7]‥‥‥ )
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さあ、ではみんなでこいつを下台《しただい》の麦ばたけまで持《も》って行こう、こっちの崖《がけ》はあんまり急《きゅう》ですからやっぱり女学校の裏《うら》をまわって楊《やなぎ》の木のあるとこの坂《さか》をおりて行きましょう。大丈夫《だいじょうぶ》二十分かかりません。なるべくせいの似《に》たような人と、二人《ふたり》で一つずつかついで下さい。そうです、町の裏を通って行くのです。阿部君《あべくん》はいっしょに行くひとがない、それはぼくといっしょに行こう。ああ鳴っている、
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