りません。」一人の子がつつましく賢《かし》こそうな眼《め》をあげながら答えました。
「そうです、マグノリアの木は寂静印です。」
強いはっきりした声が諒安《りょうあん》のうしろでしました。諒安は急《いそ》いでふり向《む》きました。子供らと同じなりをした丁度《ちょうど》諒安と同じくらいの人がまっすぐに立ってわらっていました。
「あなたですか、さっきから霧の中やらでお歌いになった方は。」
「ええ、私です。またあなたです。なぜなら私というものもまたあなたが感《かん》じているのですから。」
「そうです、ありがとう、私です、またあなたです。なぜなら私というものもまたあなたの中にあるのですから。」
その人は笑《わら》いました。諒安と二人ははじめて軽《かる》く礼《れい》をしました。
「ほんとうにここは平《たい》らですね。」諒安はうしろの方のうつくしい黄金の草の高原を見ながら云《い》いました。その人は笑いました。
「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさに対《たい》する平らさです。ほんとうの平らさではありません。」
「そうです。それは私がけわしい山谷を渡《わた》ったから平らなのです。」
「
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