ます。さよなら。」(すばやく退場、みんなひどく笑ふ。拍手、コンフェットウ、)
葡萄園農夫(演壇に立つ。)「諸君、黄いろなシャッツを着た山猫釣りの野郎は、正にしっぽをまいて遁げて行った。つめくさの花がともす小さなあかりはいよいよ数を増し そのかほりは空気いっぱいだ。見たまへ。天の川はおれはよくは知らな〔〕いが、何でもxといふ字の形になってしらじらとそらにかかってゐる。かぶとむしやびらうどこがねは列になってぶんぶんその下をまはってゐる。愉快な愉快な夏のまつりだ。誰ももう今夜はくらしのことや、誰が誰よりもどうだといふやうな、そんなみっともないことは考へるな。おゝ、おれたちはこの夜一ばん、東から勇ましいオリオン星座がのぼるまで、このつめくさのあかり照らされ、銀河の微光に洗はれながら、愉快に歌ひあかさうぢゃないか。黄いろな藁の酒は尽きやうが、もっときれいなすきとほった露は一ばんそらから降りてくる。おゝ娘たち、(町の人形どものやうに、手数を食った馬鹿げた着物を着ないでも、)お前たちはひときれの白い切をかぶれば、あとは葡萄いろの宵やみや銀河から来る鈍い水銀、さまざまの木の黒い影やらがひとりでにおまへ
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