ます。さよなら。」(すばやく退場、みんなひどく笑ふ。拍手、コンフェットウ、)
葡萄園農夫(演壇に立つ。)「諸君、黄いろなシャッツを着た山猫釣りの野郎は、正にしっぽをまいて遁げて行った。つめくさの花がともす小さなあかりはいよいよ数を増し そのかほりは空気いっぱいだ。見たまへ。天の川はおれはよくは知らな〔〕いが、何でもxといふ字の形になってしらじらとそらにかかってゐる。かぶとむしやびらうどこがねは列になってぶんぶんその下をまはってゐる。愉快な愉快な夏のまつりだ。誰ももう今夜はくらしのことや、誰が誰よりもどうだといふやうな、そんなみっともないことは考へるな。おゝ、おれたちはこの夜一ばん、東から勇ましいオリオン星座がのぼるまで、このつめくさのあかり照らされ、銀河の微光に洗はれながら、愉快に歌ひあかさうぢゃないか。黄いろな藁の酒は尽きやうが、もっときれいなすきとほった露は一ばんそらから降りてくる。おゝ娘たち、(町の人形どものやうに、手数を食った馬鹿げた着物を着ないでも、)お前たちはひときれの白い切をかぶれば、あとは葡萄いろの宵やみや銀河から来る鈍い水銀、さまざまの木の黒い影やらがひとりでにおまへたちを飾るのだ。
あゝ、山猫の云ひぐさではないが、
[#ここから2字下げ]
ポランの広場の夏まつり
ポランの広場の夏まつり とかうだ。」
[#ここで字下げ終わり]
(壇を下る 拍子、歓声、オーケストラ、〔数文字空白〕を奏する 円舞はじまる。
[#地から3字上げ]幕)
底本:「【新】校本宮澤賢治全集」筑摩書房
1995(平成7)年11月25日初版第1刷発行
※宮沢賢治作品の草稿には、繰り返し書き加えられた手直しの跡が残されている。底本の本文は、「原則として作品の最終形態」によっているが、「草稿・原文を校訂して本文を決定した場合には、本文の該当部分を〔 〕で括って」示してある。編者による注記も、〔 〕によって示されている。本ファイルの作成に当たっては、底本が用いた〔 〕をそのまま使用した。
入力:岡本正貴
校正:石川友子
2000年1月8日公開
2005年10月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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