、キューストさんがぼくらのなかまへはいると。」
「ロザーロ姉さんをもらったらいいや。」だれかが叫びました。
 わたくしは思わずぎくっとしてしまいました。
「いや、わたくしはまだまだ勉強しなければならない。この野原へ来てしまっては、わたくしにはそれはいいことでない。いや、わたくしははいらないよ。はいれないよ。なぜなら、もうわたくしは何もかもできるという風にはなっていないんだ。わたくしはびんぼうな教師の子どもにうまれて、ずうっと本ばかり読んで育ってきたのだ。諸君のように雨にうたれ風に吹かれ育ってきていない。ぼくは考えはまったくきみらの考えだけれども、からだはそうはいかないんだ。けれどもぼくはぼくできっと仕事をするよ。ずうっと前からぼくは野原の富をいま三倍もできるようにすることを考えていたんだ。ぼくはそれをやって行く。
(原稿約一枚分空白)
 そしてわたくしどもは立ちあがりました。
 風がどうっと吹いて来ました。みんなは思わず風にうしろ向きになってかがみ、わたくしはさっきからあんまり叫んだので風でいっぱいにむせました。はんのきも梢がまるで地面まで届くようでした。
「さあよし、やるぞ。ぼくはも
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