て云いました。
「きみはファゼーロって云うんだね。宛名をどう書いたらいいかねえ。」
「ぼく、ひまを見付けて、おまえんうちへ行くよ。」
「ひまって、今日でもいいよ。」
「ぼく仕事があるんだ。」
「今日は日曜じゃないか。」
「いいえ、ぼくには日曜はないんだ。」
「どうして。」
「だって仕事をしなけぁ。」
「仕事ってきみのかい。」
「旦那んさ。みんなもう行って畦《あぜ》へはいってるんだ。小麦《こむぎ》の草をとっているよ。」
「じゃきみは主人のとこに雇われているんだね。」
「ああ。」
「お父さんたちは。」
「ない。」
「兄さんか誰かは。」
「姉さんがいる。」
「どこに。」
「やっぱり旦那んとこに。」
「そうかねえ。」
「だけど姉さんは山猫博士のとこへ行くかも知れないよ。」
「何だい。その山猫博士というのは。」
「あだ名なんだ。ほんたうはデストゥパーゴって云うんだ。」
「デストゥパーゴ? ボーガント・デストゥパーゴかい。県の議員の。」
「ええ。」
「あいつは悪いやつだぜ。あいつのうちがこっちの方にあるのかい。」
「ああ、ぼくの旦那のうちから見え……。」
「おい、こら、何をぐずぐずしてるんだ。」う
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