しがあるよ。」
ファゼーロがちょっと立ちどまって右手の草の中を指さしました。そこの草穂のかげに小さな小さなつめくさの花が、青白くさびしそうにぽっと咲いていました。
俄かに風が向うからどうっと吹いて来て、いちめんの暗い草穂は波だち、私のきもののすきまからは、その冷たい風がからだ一杯に浸みてきました。
「ふう。秋になったねえ。」わたくしは大きく息をしました。
ファゼーロがいつか上着は脱いでわきに持ちながら、
「途中のあかりはみんな消えたけれども……。」
おしまい何と云ったか、風がざあっとやって来て声をもって行ってしまいました。
そのとき、わたくしは二人の大きな鎌をもった百姓が、わたくしどもの前を横ぎるように通って行くのを見ました。その二人もこっちをちらっと見たようでしたが、それから何かはなし合って、とまって、わたくしどもの行くのを待っているようすです。わたくしどもも急いで行きました。
「やあ、お前さん帰って来さしゃったね。まずご無事で結構でした。」一人がわたくしに挨拶しました。
この前ポラーノの広場でデストゥパーゴに介添《かいぞえ》をしろと云われて遁げた男のようでした。
「ええ
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