トゥパーゴはなるべくみんなに眼のつかないように車道との堺の並木のしたの陰影になったところをあるいているのでした。
 どうもデストゥパーゴが大びらに陸軍の獣医たちなどと交際するなんて偽《うそ》らしいとわたくしは思いました。とうとうデストゥパーゴは立ちどまって、しばらくあちこち見まわしてから、大通りから小さな小路にはいりました。わたくしは知らないふりしてぐんぐん歩いて行きました。その小路をはいるとまもなく、一つの前庭のついた小さな門をデストゥパーゴははいって行きました。わたくしはすっかり事情を探ってからデストゥパーゴに会おうか、警察へ行って、イーハトーヴォでさがしているデストゥパーゴだと云って押えてしまってもらおうかと、そのときまで考えていましたが、いまデストゥパーゴの家のなかへはいるのを見るともう前後を忘れて走り寄りました。
「デストゥパーゴさん。しばらくでしたな。」
 デストゥパーゴはぎくっとして棒立ちになりましたが、わたくしを見ると遁げもしないでしょんぼりそこへ立ってしまいました。
「ファゼーロをたずねてまいったのですが、どうかお渡しをねがいます。」
 デストゥパーゴははげしく両手を
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