云いました。そして、しきりに変な形になって行く顔を気にしながら、残りの半分のひげを剃らせていました。
わたくしも急ぎました。けれどもたしかにわたくしの方が早く済むのです。それでも向うがさきに済んだら、こっちもすぐ立とうと思ってそっと財布をさぐって、大きな銀貨を一枚もって握っていました。ところがどういうわけか、私より私のアーティストがもっと急いで居りました。そしてしきりに時計を見ました。
まるで私の顔などは、三十五秒ぐらいで剃ってしまったのです。
「さあお洗いいたしましょう。」
私はデストゥパーゴに知れないように、手で顔をかくしながら大理石の洗面器の前に立ちました。
アーティストは、つめたい水でシャアシャアと私の頭を洗い時々は指で顔も拭《ぬぐ》いました。
それから、私は、自分で勝手に顔を洗いました。そして、も一度椅子にこしかけたのです。
その時親方が、
「さあもう一分だぞ。電気のあるうちに大事なところは済ましちまえ。それからアセチレンの仕度はいいか。」
「すっかり出来ています。」小さな白い服の子供が云いました。
「持って来い。持って来い。あかりが消えてからじゃ遅いや。」親方が
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