の卓に書類を載せて鬚《ひげ》の立派な一人の警部らしい人が、たったいまあくびをしたところだというふうに目をぱちぱちしながら、こっちを見ていました。
「そこへお掛けなさい。」
わたくしは警部の前に会釈して坐りました。
「君がレオーノ・キュースト君か。」警部は云いました。
「そうです。」
「職業、官吏、位階十八等官、年齢、本籍、現住、この通りかね。」警部はわたしの名やいろいろ書いた書類を示しました。
「そうです。」
「では訊《たず》ねるが、君はテーモ氏の農夫ファゼーロをどこへかくしたか。」
「農夫のファゼーロ?」わたくしは首をひねりました。
「農夫だ。十六歳以上は子どもでも農夫だ。」警部は面倒くさそうに云いました。
「君はファゼーロをどこかへかくしているだろう。」
「いいえ、わたくしは一昨夜競馬場の西で別れたきりです。」
「偽《うそ》を云うとそれも罪に問うぞ。」
「いいえ。そのときは二十日の月も出ていましたし野原はつめくさのあかりでいっぱいでした。」
「そんなことが証拠《しょうこ》になるか。そんなことまでおれたちは書いていられんのだ。」
「偽だとお考えになるならどこなりとお探しくださればわ
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