っついて、
「所長さんがすぐ来いって。」と云いました。
 わたくしはすぐペンを置いてみんなの椅子の間を通り、間の扉をあけて所長室にはいりました。
 すると所長は一枚の紙きれを持って扉をあける前から恐い顔つきをして、わたくしの方を見ていましたが、わたくしが前に行って恭《うやうや》しく礼をすると、またじっとわたくしの様子を見てからだまってその紙切れを渡しました。見ると、
[#天から3字下げ]イ警第三二五六号 聴取の要有之本日午後三時本警察署人事係まで出頭致され度《た》し
[#地から3字上げ]イーハトーヴォ警察署[#地より3字上げ]
[#天から6字下げ]一九二七年六月廿九日
[#天から1字下げ]第十八等官レオーノ・キュースト殿
とあったのです。
 ああ、あのデストゥパーゴのことだな、これはおもしろいと、わたくしは心のなかでわらいました。すると所長はまだわたくしの顔付きをだまってみていましたが、
「心当りがあるか。」と云いました。
「はい、ございます。」わたくしはまっすぐ両手を下げて答えました。
 所長は安心したようにやっと顔つきをゆるめて、ちらっと時計を見上げましたが、
「よし、すぐ行くよう
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