にしながら、
「よし、持ってこい。」と声だけ高く云いました。
「承知しました。」
給仕が食事につかうナイフを二本持って来て、うやうやしくデストゥパーゴにわたしました。まるで芝居だとわたくしは思いました。ところがデストゥパーゴはていねいにこの両方の刃をしらべているのです。それから、
「さあどっちでもいい方をとれ。」といって二本ともファゼーロに渡しました。
ファゼーロはすぐその一本をデストゥパーゴの足もとに投げて返しました。デストゥパーゴは拾いました。
そこでわたくしはまん中に出ました。
「いいか。決闘の法式に従うぞ。組打ちはならんぞ。一、二、三、よし。」
すると何のことはない、デストゥパーゴはそのみじかいナイフを剣のように持って一生けんめいファゼーロの胸をつきながら後退りしましたしファゼーロは短刀をもつように柄をにぎってデストゥパーゴの手首をねらいましたので、三度ばかりぐるぐるまわってからデストゥパーゴはいきなりナイフを落して左の手で右の手くびを押えてしまいました。
「おい、おい、やられたよ。誰か沃度《ヨード》ホルムをもっていないか。過酸化水素はないか。やられた、やられた。」
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