はありません。今夜は大切の場合なのですから、どうか。」
すると山猫博士はいきなりその男を撲りつけました。
「やかましい。そんなことはわかっている。黙って居れ。おい誰かおれの介添をしろ。テーモ。」
「はい。どうぞ、おゆるしを。あとでわたくしがよく仕置きいたします。」
「やかましい。おい、クローノ、きさまやれ。」
クローノと呼ばれた百姓らしい男が、
「さあ、おいらじゃあね。」と云ってみんなのうしろへ引っ込んでしまいました。
「臆病者、おいポーショ、きさまやれ。」
「おいらあとてもだめだよ。」
デストゥパーゴはいよいよ怒ってしまいました。
「よし介添人などいらない。さあ仕度しろ。」
「きさまも早く仕度しろ。」わたくしはファゼーロに上着をぬがせながら云いました。
「剣でも大砲でもすきなものを持ってこいよ。」
「どっちでもきさまのすきな方にしろ。」どこにそんなものがあるんだい、と思いながらわたくしは云いました。
「よし、おい給仕、剣を二本持ってこい。」
すると給仕が待っていたように云いました。
「こんな野原で剣はございません。ナイフでいけませんか。」
するとデストゥパーゴは安心したよう
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