ルのない大きな瓶《びん》からいままでみんなの呑んでいた酒を注ごうとしました。わたくしはそこで云いました。
「いや、わたしたちはね、酒は呑まないんだから炭酸水でもおくれ。」
「炭酸水はありません。」給仕が云いました。
「それならただの水をおくれ。」わたくしは云いました。
 どういうわけかみんなしいんとして穴の明くほどわたくしどものことばかり見ています。わたくしも少し照れてしまいました。
「いや、デストゥパーゴさまは人に水をごちそうはなさいませんよ。」テーモが云いました。
「ごちそうになろうというんでないんです。野原のまんなかで、つめくさのあかりを数えて来たポラーノの広場で、わたくしは渇いて水が呑みたいのです。」
 もうゆきがかりで仕方ないと私は思ってはっきり云いました。
「つめくさのあかり、わっはっは。」テーモはわらいだしました。デストゥパーゴもわらいました。みんなもそのあとについてわらいました。
「ポラーノの広場もな、お気の毒だがデストゥパーゴさまのもんだよ。」テーモがしずかに云いました。そのとき山猫博士が云いました。
「よし、よし、まあすきなら水をやっておけ。しかしどうも水を呑むやつ
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