なしに輪道を半分通って、それからこの前山羊が村の人に連れられて来た路をそのまま野原の方へあるきだしました。
そこらの畑では燕麦《えんばく》もライ麦ももう芽をだしていましたし、これから何か蒔《ま》くとこらしくあたらしく掘り起こされているところもありました。
そしていつかわたくしは町から西南の方の村へ行くみちへはいってしまっていました。
向うからは黒い着物に白いきれをかぶった百姓のおかみさんたちがたくさん歩いてくるようすなのです。わたくしは気がついて、もう戻ってしまおうと思いました。全くの起きたままチョッキだけ着て顔もあらわず帽子もかむらず山羊が居るかどうかもわからない広い畑のまんなかへ飛びだして来ているのです。けれどもそのときはもう戻るのも工合が悪くなってしまっていました。向うの人たちがじき顔の見えるところまで来ているのです。わたくしは思い切って勢よく歩いて行っておじぎをして尋ねました。
「こっちへ山羊が迷って来ていませんでしたでしょうか。」
女の人たちはみんな立ちどまってしまいました。教会へ行くところらしくバイブルも持っていたのです。
「こっちへ山羊が一疋迷って来たんですが、ご
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